バードウォッチングや、アニマルトラッキングなどのフィールドワークをする人は、その日どんな生き物を目にしたかをフィールドノートに記録します。私はノートを執る代わりに、フィールドでの体験の中で、特に印象に残ったシーンのイメージを立体化して残します。私というフィルターを通して具現化された景色の中に、あなたの原風景を垣間見ていただけたなら幸いです。
場所は日光戦場ヶ原、木道がズミの木立をくぐり抜ける辺りでコガラ達は飛来しました。彼らは、ズミの木々に鳴きながら舞い降りると、太い幹から梢までを縦横無尽に飛び移り、盛んに新芽を啄んでいます。
取り囲まれる格好で、私はカメラを上へ下へと向けるのですが、忙しく動き回る彼らをまともに捉える事が出来ません。
しばらく木立を賑わせていた彼らでしたが、ひとしきり新芽を食べ終えると、また鳴きながら飛び去っていきました。
カメラを手に立ち尽くす私を残し、ズミの木立は再び静寂に包まれたのでした。
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実物の66%モデルで、全長8cmの大きさに創りました。
内部は軽量の石粉粘土です。細い脚で体を支えるには本物の鳥さながらに重量を軽くしなくてはならないのです。
小さな新芽を選んでくわえています。実のない時期に柔らかい新芽は貴重なご馳走なのかも知れません。
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幹に取り付くやいなや、またすぐに飛び立とうとします。
せわしなく動き回る様子は魅力的でもあり、なかなかカメラで捉えさせてくれないもどかしさでもあります。
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初めて創った粘土の翼。これが後の“粘土の羽根飾り”へと続くのです。
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茂り始めたズミの若葉。こういった舞台を彩る粘土の草木はアートフラワーの技術の応用です。
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杉林の谷の奥、ひときわ太い杉の大木にオオタカの巣はありました。
幹から枝が分かれる又の部分に掛けられた巣は、生い茂る枝や葉によって巧妙に隠されており、その全貌を視野に入れる事は容易ではありません。
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巣の中には雌と三羽の雛が。
孵化した時期が違うので、最後に孵った子はまだ羽根が生えておらず、白い羽毛に包まれているだけです。その羽毛は粘土に細かい綿を混ぜる事で表現しました。
一枚一枚の羽根は、粘土を極限にまで薄く延ばしたもの。羽根の端々がバラバラと裂けている様子から自然下での生活感を窺うことが出来ます。
オオタカの眼は一般的に雄は橙色、雌は黄色といわれますが、雛の眼は成鳥のそれと違い水色のビー玉の様でした。いずれの眼もアクリル樹脂、エポキシ樹脂などを使って自作し、描いた瞳を裏から貼り付けたものです。
出来合いのドールアイの中からでは、色味や雰囲気の合うものを見つけることは難しいのです。
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親鳥達は雛の為に代わる代わる餌を運びます。雄が捕らえてきたのはキジバトです。
残酷な様ですが、この犠牲により雛達は育っていく事ができるのです。種を超えて命は次の世代へと受け継がれます。
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塗装はアクリル絵の具で下地を作り、油絵の具では毛並みの立体感を出したり、色のグラデーションをつけます。フワッとした毛の表現する場合に油絵の具に勝るものはないと私は思います。
青灰色の背面も自然光の下では、羽根一枚一枚への光の当たり方が違うので様々な色に見えてきます。黒、藍、灰色などを合わせて、何種類もの色の羽根を張り合わせました。
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巣材となる杉の枯れ枝一本一本も粘土で制作しました。巣の所々に付く羽毛はその巣で雛が育っている証拠です。
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巣内取材のチャンスは雛が巣立ち、次の子育てが始まる前の秋口です。
巣が空き家になるこの時期に地上10数mの巣の位置まで木登りを敢行、決死の取材です。根元では直径60cm以上はあろう杉の幹も地上10数mの位置では直径30cmにまで細まっています。
そして自分が降り立つ横枝のなんと頼りないことか、直径10cmをきっているではありませんか。こんな細枝三本に巣は支えられています。餌が獲れない日も続くであろうばかりか、住居からして不安定なオオタカの生活。月給取りではないフリーランスとはいえ、私など文字通り地に足のついた生活をさせてもらっている分、神に感謝するべきなのです。地上に生まれて良かった。
そんな思いまでして得たデータでしたが、デジカメの操作ミスで痛恨の全消去、口惜しや。巣の中心に向かって渦巻いて見えるのは、杉の小枝と当て所無い怨念です。
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初夏の頃、平地の広くて古い池にアオヤンマはその姿を見せてくれます。また夏が来たのだと、私を浮き足立たせるのがアオヤンマです。
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成熟して間もない青緑の美しいボディー。腹部の節構造も相俟って、かつて竹ヤンマと呼ばれていた事にも頷けます。
ウレタン樹脂で成形したボディーに、塗装はラッカーを吹き付けました。
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水辺に茂るスゲやヨシの合間を縫う様にして飛び回ります。
翅は透明な樹脂粘土を薄く延ばしたもの。前縁のしみゃくにワイヤーを仕込む事で、羽ばたく時の上下のしなり、前後の捻れの状態を保っています。
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春の終わり頃、平地の広くて古い池でトラフトンボが飛び始めます。近所の池ではゴールデンウィークの頃がトラフトンボの最盛期です。
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トラフトンボは特殊な方法で産卵をします。まず、水辺付近の木立などに止まり、腹の先に数百個の卵がゼラチン質に包まれた塊(卵塊)を作ります。
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その後、卵塊を落とす場所を探して水面上を飛び回るのです。産み落とされた卵塊は、ほどけてヒモ状になり、水草に絡まって孵化を待ちます。
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初夏から秋口にかけてまでギンヤンマはその姿を見せてくれます。全国の池に分布し、私たちが一番目にする機会の多いヤンマと言えるでしょう。
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日中は主に、水辺の縄張りをパトロールして過ごします。円を描く様に同じ軌道を飛び回り、時折植物にぶら下がる様にして休息します。
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トンボの複眼はトンボが死ぬ事でその輝きを失います。
いかなる手法でも標本として複眼の輝きを保存する事は出来ません。複眼の輝きを保つ事が出来たら…それはトンボ屋の決して叶うことのない夢なのです。仕方がないので私は作りました。
頭部を多重構造にする事で、眼の黒点を金魚鉢の中の景色の様にぼんやり歪ませました。また、透明な外層部の厚みを部分的に変える事で光の屈折が生まれ、複眼の中にグラデーションを作っています。
ウレタン樹脂の脚の中心にはワイヤーが入っており、飛行形態から脚を伸ばして掴まるポーズヘとフレキシブルに可動します。
細い脚ですが、ワイヤーで強度を増しているので、とまらせた時も体全体をしっかり支えています。
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腹部の裏の汚れ感もリアルな塗装で再現。
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水際の泥の質感は実際に粘土を泥状に溶かして形成し、水底の藻類はラッカーを吹き付けています。ヨシ、マコモ等の抽水植物は柔軟な樹脂粘土により制作しました。
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